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コバールについて

コバールとは

コバール(Kovar)は、主成分として鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)を含む特殊合金です。もともとは Carpenter Technology Corporation 社の登録商標でしたが、現在では一般的な合金名として広く用いられています。

コバールの特性と切削加工性

コバールの最大の特徴は、熱膨張係数が硬質ガラスやセラミックスに近い点にあります。この特性により、異なる材料を接合する際に発生する膨張率の差による割れや破損を防ぐことができます。さらに、優れた気密性と耐食性を有し、過酷な環境下でも安定した性能を発揮します。
真空溶解によって精製されるため、化学組成のばらつきが少なく、均一な熱膨張特性を示します。常温付近での低い熱膨張率と耐熱性の高さから、高精度が求められる用途や封着、封入、接触時の熱割れ防止に非常に有用です。また、鋼、銅、ニッケルとの溶接・ろう付けが可能なため、異種材料の接合にも適しています。


一方、コバールは熱伝導率が低く、粘り強い性質を持つため加工や切削が困難です。生産現場ではバリの除去に時間を要するほか、入手時に反りが見られる場合があるため、調達時には大きいサイズを選ぶなどの注意が必要です。

コバールの切削加工が困難な理由は、主に以下の3点に集約されます。

①切削時の熱問題
コバールは熱伝導率が低いため、切削部位に熱がこもりやすく、刃先温度が上昇すると工具の劣化が進行します。コバールの熱伝導率は約17 W/(m·K)で、同じニッケル合金のインコネル(11.5~14.8 W/(m·K))と近い値です。
②加工硬化の発生
金属を塑性変形させる際に硬化する加工硬化は、切削加工において工具寿命を縮める要因となります。加工硬化が進むとチッピング(刃先の欠損)が発生し、加工精度や仕上がりに悪影響を与える恐れがあります。したがって、加工硬化が起こりにくい切削条件の確立が重要です。
③工具に切粉が溶着する
コバールは粘性と延性が高いため、切削時に発生する切粉が工具に付着しやすいです。この溶着現象は、工具の損傷や加工不良、製品不良の原因となるため、適切な工具選定と切削条件の見直しが必要となります。

上記の問題が重なると、切削工具や刃先が微細に欠けたり、切粉が工具に残留して過度な削りが発生するなど、加工精度の低下を招きます。そのため、各工程での条件設定や工具選定には細心の注意が必要です。

コバールの主要化学組織(%)

合金名 化学成分 (%)
コバール C P S Mn Si Cu Cr Mo Ni Co Fe
0.03% 0.02% 0.02% 0.5% 0.3% 0.2% 0.2% 0.2% 28.5~
29.5%
16.8~
17.8%
Bal.

コバールの物理的性質

密度 8.3~8.4 g/cm³
キュリー温度 約450°C
融点 約1480°C
20℃における弾性率 8137 Gpa
20℃における熱伝導率 17 W/m.k
比熱 0.5 J/g-°C
熱膨張 5.5×10-6 °C
電気抵抗率 1.0×10-6 Ω·m
ポアソン係数 0.3

※データは参考値です。

コバールの活用用途

コバールは、その低熱膨張率を活かし、主に電子部品やトランジスタ関連の用途で利用されています。電子部品の製造や組み立て工程では、金属、ガラス、セラミックスなど異種材料の接合が必要ですが、材料間の熱膨張率の差が熱割れなどの問題を引き起こす可能性があります。
硬質ガラスやセラミックスと熱膨張係数が近いコバールは、こうした異種材接合の問題を解決するための理想的な接合部材となります。具体的には、トランジスタのリードキャップ、ICリードフレーム、高出力通信管部品、水晶振動ケースなど、光通信関連部品の製造や電子管のガラス封入材料として活用され、コバールの性質を最大限に発揮しています。

コバールの切削時の対策

熱問題を解消する
切削条件の見直し、特に切削速度や送り速度の最適化が重要です。基本的には切削速度を低く設定することで加工熱の発生を抑えますが、あまりにも低速にすると溶着が発生しやすくなるため、適切なバランスが求められます。
切削速度を下げる方法で対応できない場合には、クーラントを使うのも有効です。 クーラントを使用することで切削箇所を効率的に冷却し、潤滑作用によって切粉の排出を促進できます。
加工硬化を避ける
切削時に発生する摩擦熱と塑性変形による加工硬化を抑制するため、鋭利な工具の使用や刃物角度の調整、擦れが少ない加工パス(ツールパス)の設計が有効です。
切粉の溶着を防ぐ
コバールの切粉は粘性が高く除去が難しいため、溶着の一因となっています。これを防ぐには、以下の対策が効果的です。
  • 1)すくい角が大きい工具の選定

    すくい角が大きい工具は切粉の厚みを抑え、排出しやすくします。ただし、すくい角を大きくしすぎると刃先の強度が低下するため、適切なバランスが必要です。

  • 2)すくい面の摩擦抵抗を低減する

    すくい面を滑らかに保つことで、切粉の付着を防ぎます。工具が摩耗して研削痕が生じた場合は、適宜研磨するなどのメンテナンスが効果的です。

  • 3)コバールとの親和性が低い工具の選定

    超硬工具は耐久性が高い一方、コバールとの化学的親和性が強く溶着しやすい傾向にあります。したがって、サーメット工具やコーティング工具など、親和性の低い工具を選ぶことで溶着を防止できます。