インバーについて
インバーとは
インバー(Invar)は、鉄にニッケルを加えた合金で、温度変化による膨張率が非常に小さいため「低膨張金属」とも呼ばれます。基準器、マグネスケール、光学機器、半導体製造装置など、寸法安定性が求められる部品に広く用いられています。
インバーの特性と切削加工性
インバーは、鉄に36%のニッケルを含む低膨張合金で、-250℃~+200℃という広い温度範囲において寸法変化がほとんど生じません。この極めて低い熱膨張性は、温度上昇による膨張と、強磁性から常磁性への変態に伴う収縮が相殺されるために実現されています。具体的には、鉄の熱膨張係数が11.8に対し、インバーでは約2.0(鉄の約1/6、ニッケルの約1/10)という非常に低い値です。
この特性により、インバーは精密機器、測定機器、天体望遠鏡、LNG関連設備など、温度変化による寸法変動を最小限に抑える必要がある分野で活用されています。また、安定した寸法保持性から、科学実験や高精度加工部品としての需要も高いです。一方、低膨張性を実現する特殊な組成ゆえに、切削加工が難削材として扱われるという側面もあります。
インバー材の切削加工においては、以下の3点が主な課題となります。
- ①切り屑の絡みやすさと工具摩耗
- インバーは非常に粘り強いため、切削中に発生する切り屑が工具に絡みやすく、これが工具の摩耗を促進し、加工面の仕上がりに悪影響を与えます。
- ②低熱伝導率による局部過熱と工具温度上昇
- 熱伝導率が低いため、加工時に発生する熱が材料内にこもりやすく、工具の温度が上昇します。これにより切れ味が低下するとともに、インバー自体が熱膨張して寸法精度が損なわれる可能性があります。
- ③低熱膨張性がもたらす寸法変動の敏感さ
- インバーの最大の特徴である低い熱膨張率は、加工においては逆に難しい要素となります。加工中のわずかな温度変化でも寸法が変化してしまうため、精密な加工が非常に困難になります。
これらの理由から、インバー材の切削加工には高度な技術と豊富な経験が必要となります。適切な工具選定、切削条件の最適化、冷却方法の工夫など、各種対策を講じることで高い加工精度を実現することが可能です。
インバーの主要化学組織(%)
合金名 | 化学成分 (%) | |||
---|---|---|---|---|
インバー | Fe | Ni | C | その他 |
64% | 36% | Bal. | Bal. |
インバーの物理的性質
密度 | 8.1 g/cm³ |
---|---|
キュリー温度 | 約230℃ |
融点 | 約1425℃ |
20℃における弾性率 | 141 GPa |
20℃における熱伝導率 | 13 W/m.k |
比熱 | 0.5 J/g-°C |
熱膨張 | 2.0×10-6 °C |
電気抵抗率 | 1.3×10-6 Ω·m |
ポアソン係数 | 0.29 |
※データは参考値です。
インバーの活用用途
インバーは、その極めて低い熱膨張率を活かし、精密な測定機器や科学実験装置、さらには大型構造物の温度制御部材など、温度変化による微小な寸法変動を抑えたい分野で利用されています。
例えば、精密計測機器の製造や組み立てでは、各部品の寸法安定性が非常に重要であり、温度変動による膨張・収縮が全体の性能や測定精度に影響を与える恐れがあります。インバーはその低熱膨張性により、異種材料間の温度差によるトラブルを防ぎ、各構成部品の連携を確実にします。
特に、天体望遠鏡の鏡台、精密時計の部品、レーザー干渉計や高精度測定装置のフレーム、さらにはLNG関連設備の構造部材など、寸法変動が致命的となる用途において、インバーは高い信頼性を発揮しています。
インバーの切削時の対策
- 適切な工具の選定
- 耐摩耗性・耐熱性に優れた超硬工具やセラミック工具など、インバーの特性に適した工具を使用することで、切り屑の絡みや工具摩耗を軽減します。
- 切削条件の最適化
- 切削速度、送り速度、切込み量などのパラメータを最適化し、局部的な過熱を防ぐとともに、均一な切削力を維持することが重要です。
- 効果的な冷却・潤滑対策
- 十分な冷却液や切削油を供給することで、工具の温度上昇を抑制し、切粉の付着および加工面の寸法変動を防ぎます。
- 加工環境の管理と振動制御
- 工作機械の安定性を確保し、振動や衝撃を最小限に抑えることで、加工中の精度を維持します。
- 定期的な工具メンテナンス
- 工具の摩耗状態を常にチェックし、必要に応じて早期交換を行うことで、常に最適な切削条件を保ちます。